仕事での接点が全くない人に「職業はなんですか?」と聞かれると、「一応、デザイナーです」と何だか歯切れの悪い返事をしたのち、「チラシとか名刺とか…」と定型文を伝えるに終わります。
結果としてボクは「何だかわからないけど印刷物などを作っている人」と認識されますが、あながち間違っているわけではないので、それでもいいかなと思ったりもしつつも、“デザイン”のことを伝える役割は全くしていないなと、反省したりもします。
まずもって“グラフィックデザイナー”と言っても、興味のない人からすれば何をしている人かもわからないし、コンピューター関係のお仕事、ITの人、プログラマーという感じで捉えられるか、“デザイナー”という響きから、建築やファッション関係を連想されたりもします。
それでは、“デザイン”とは一体何なのでしょうか?
改めて考えてみます。
意外と知らない?Designの語源
まずは元の意味から探ってみます。
『Design(デザイン)』という言葉の語源は、“計画を記号に表す”という意味のラテン語『designare(デジナーレ)』。
これは“素描”という意味のフランス語『Dessin(デッサン)』と語源を同じくします。
※デッサンについても突き詰めて考えたいところですが、それはまた別記事で。
外来語として入ってくる際に「図案」「意匠」などと訳されて多く紹介されてしまったがために、本来の“表す”という行為であるということ、“計画する”という考え方である点が無視され、単に文字や図式をキレイにレイアウトし表したカタチそのものであると捉えれがちではありますが、そもそも“デザイン”は「図案」「意匠」や自体ではありません。
意匠とデザインは違う
街中で空き看板に「意匠制作中」と書かれているのを見るときがあります。
あまり日常会話で飛び交う言葉ではないのですが、誰もが目にしたことはあるかと思います。
要は「デザインが施されていない看板」ですが、この“意匠”という意味を改めて見直すと、より“デザイン”の本質に近づける気がします。
意匠(三省堂 大辞林より)
①工夫をめぐらすこと。趣向。 「 -を凝らす」
②美術工芸品・工業製品などの形・色・模様などをさまざまに工夫すること。また,その結果できた装飾。デザイン。
また、日本には“意匠法”というものがあります。
意匠法による意匠とは、物品の形状,模様もしくは色彩またはこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいう(意匠2条1項)。産業上利用することができる新規の意匠については,登録により意匠権が発生する(意匠3条,20条)。なお、物品の操作の用に供される画面デザインも意匠の構成要素に含まれる。
国語的な意味を見る限りでも、緻密さをもつ「計画」や「記号」というものは出てきません。あくまでも工夫や装飾、趣向にとどまります。
また、意匠法で言うならば、物品に施されるデザインは要素でしかなく、結果できた「産業上利用される物自体」が意匠とされます。
“キャラクターデザイン”という言葉は、誰しもが聞き馴染みのある言葉ですよね。
例えば、かの有名な「キティちゃん」を例にすると、紙に描かれたキティちゃん自体はデザインと言えますが意匠ではありません。
それでは何が意匠にあたるかというと、キティちゃんが描かれたポーチなどです。
これは、「意匠法第2条第1項」において、意匠とは「物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定義されているためです。つまり物品と一体になったデザインでなければ、意匠としては成立しません。このために、単なる紙上のキャラクター(キティちゃん)の絵は、意匠とはなりえません。
また、建築物の外観デザインも意匠法においては意匠と見なされません。
これは「意匠法第3条第1項」において、意匠とは「工業上利用することができる」もの、と定義されているからです。この規定により、美術館や高層マンションという不動産のデザインは、すべて意匠から除外されることになります。
要は物品を介するかどうかがデザインと意匠を分けるポイントとなります。
意匠は必ずデザインではあるけれど、デザインは必ず意匠とは限りません。
デザインは考え方
今でこそ“ライフデザイン”などという言葉を耳にするようになりましたが、これも何かカタチを作る仕事ではありませんよね。
人生や生活をどういう風に“設計”するのかということ自体がデザインだという考え方です。どちらかというとコンサルですね。
デザインの意味として、本来重要な点は“設計”するというところです。
“設計”という言葉は、建築などでは違和感の少ない言葉ですが、チラシやポスターなどのグラフィックデザインにおいてはどうでしょうか。
文字やイラスト、写真が見やすくキレイにレイアウトされていれば、デザインと呼べるでしょうか?
狭い意味では間違いではありませんが、そこにコンセプトや問題解決の意識がなければ、ただの派手な紙切れに過ぎません。
IllustratorやPhotoshopさえ触れれば、デザインめいたものは誰でも作れる時代になりました。
チラシが作れるコックさんや、ウェブに詳しいサロンオーナーも珍しくはありません。
ですが、真の意味でデザインのできる人は少ないでしょう。
今こそ、デザイナーと言われる人たちの真価が問われているように思いますし、デザインとは何かという原点に立つべきかと感じます。